思想・哲学担当 渋谷 亮先生の地域をめぐる話
大事なのは地域社会への客観的な目線と
現場の視点をどうつなぐか。
日本はこれまで国などの大きな単位を中心にものごとを考えてきました。しかしこれからは地域といった小さな単位を、より一層重視していくことが必要とされています。それに伴い大学も、必要な専門知識だけを詰め込む学びの場所といった考え方を変えるべき過渡期に差し掛かっています。そんななか、成安造形大学が新しい学びの方向性として導き出したのが地域実践領域です。
これからの時代、コミュニティなどの地域単位のつながりがテーマになってくるでしょう。しかし、コミュニティとは何かをしっかりと考えることなしには、つながりを持続することは困難ではないでしょうか。例えば、近代社会ではしばしば貨幣による経済的つながりを中心に、共同体が育まれてきました。しかし、地域単位で物事を考えていくときに、何がつながりの媒介になるのか。また暮らしが多様化するなかで、異なった背景や条件を持つ人たちがコミュニティを成すことを考えれば、必ずしも強いつながりがよいものだというわけでもありません。コミュニティにおけるつながりの強さ、コミュニティ間の移動のあり方などがどうあるべきか。そうしたことを、その都度、地域のなかで考える必要があります。
私は特別支援学級のフィールドワークを通じて、子どもたちが人々といかなる関係を結ぶのかを検討してきました。支援の現場では、障害のない子どもたちと障害のある子どもたちが共に生きていくための工夫が模索され、様々なつながりの形が試されています。それは多様な人たちが共生し、学びあうコミュニティのあり方を考える手がかりになるでしょう。
これまでの学問はしばしば、第三者的な視点で物事を考えてきたと言えます。しかし実際の現場では、多くの場合、一人称の視点から目の前の問題に取り組むことを迫られます。だからこそ、地域実践領域は三人称と一人称の間をつなげていく人材を育てていければと考えています。客観的な目線を持ちながらも、現場を理解し、現場の視点に立つこともできる。これからの地域には、そのように両者を行き来し、媒介する力が必要になってきます。地域実践領域は、そうした力を養う新たな学びの形を提供する場所であり、それこそ地域実践領域の最大の魅力になります。
渋谷 亮 准教授 Ryo Shibuya
教育学者。専門は教育思想史・教育人間学。心理学・精神分析などを思想史的・哲学的に検討。また特別支援教育やひとり親家庭の子育てなどについてのフィールド研究も行っている。主な論文 ・著書に「引き裂かれを生きる―母になる/ならないために―(コメント論文)」(2016年『近代教育フォーラム』25号)、上尾真道・牧瀬英幹編『発達障害の時代とラカン派精神分析』(第7章担当。近刊予定、晃洋書房)など。主な翻訳にブルース・フィンク『エクリを読む―文字に添って』(共訳。2015年、人文書院)など。
《学位》
大阪大学人間科学部・人間科学科卒業
大阪大学大学院人間科学研究科(博士前期課程)人間科学専攻 修了 修士(人間科学)取得
大阪大学大学院人間科学研究科(博士後期課程)人間科学専攻単位取得退学
大阪大学大学院人間科学研究科 博士(人間科学)取得