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水辺にある、暮らし (FW海津から)

水辺にある、暮らし (FW海津から)

秋、深まり、朝晩はすっかり冷え込むようになりましたね。

『地域実践基礎演習3』は海津と草津へのフィールドワークから始まりました。

*新型コロナウイルスの三密対策のため、今年度のフィールドワークは行き先を分散し、同一メンバーによるチーム行動を徹底したうえで授業をすすめています。

地域実践領域のアシスタントによる授業レポート、今回は海津のフィールドワークに同行させていただいた様子を書きたいと思います。

江戸時代には西近江路(北国海道)の宿場町・港町として繁栄した地域、マキノ町海津という地名はご存知でしょうか。

成安造形大学のあるJRおごと温泉駅から琵琶湖に沿って北側へ、電車にゆられること1時間。JRマキノ駅に降りてすぐの案内看板がフィールドワークの出発地点。ここ滋賀県高島市マキノ町海津が今回のフィールドワークさきです。

琵琶湖をはじめとする河川や内湖のほか、湖岸の石積みや共同井戸、知内川で続けられている伝統的なヤナ漁など、多様な水文化が現在も存在しています。

一方でアユ漁を中心とした漁業の拠点としても発展、それに伴い、伝統的漁法や水産物の加工業が発達し、現在に至っています。

これは地域で昔から共同井戸として利用されてきたものだそうです。フィールドワークでは、その場その場での人との出会いから自身の問いを見つけられることが往々にしてあります。

『地域実践基礎演習3』前半に海津フィールドワークだった3チームの発表内容を紹介したいと思います。

【ヅシさんぽの国 チーム】

『ヅシからのぞこう 海津の今昔』

マキノ町「海津・西浜・知内の水辺景観」は、全国では5番目、高島市内では初となる重要文化的景観としての選定を受けました。湖岸に残る、風や波から家を守るため延々と続く『石積み』はまるで城壁。海津の湖岸に独特の風景を形成しています。

琵琶湖を利用して洗濯などをする『ハシイタ』、共同井戸である『イケ』など、海津に残る多様な水文化を調査する中で、このチームは、街道沿いの民家と民家の間を抜ける細い道『辻子(ヅシ)』に注目しました。

これら写真のような、いわば琵琶湖への近道が『辻子』です。写真の奥、細道を抜けた先に広がる光に琵琶湖があります。

ヅシさんぽの国 チームは「辻子から見る人々の暮らしと、重要文化的景観」というテーマで辻子の魅力をまとめていました。地域の方々から『辻子』の話と水辺の生活について伺い、そこから分かる海津の人々の琵琶湖の捉え方の今昔の変化にまで視野を広げています。

『辻子』という一般的には無名なポイントを拾いあげ、聞き取りや文献調査・実際に足を運んでMAPにまとめることを繰り返して考察し、その魅力をしっかり言語化することが出来ていたのがこのチームの強みだったように思います。

いつの時代も変わることなく存在し続けているものと、その時代時代の人間が守り引き継いできたものが重なり、海津の景色が今ここにあるということを伝えてくれたプレゼンテーションでした。

【カイヅ・マキノ紹介班】

『海津の漁師から見た琵琶湖』

カイヅ・マキノ紹介班は偶然、海津の湖岸で出会った漁師さんからお話を伺うことができ、琵琶湖の漁師の方々が考えていることや昨今の漁の現状、琵琶湖の地球温暖化について知る機会に巡り合いました。

ヒントのひとつとなったのは、季刊誌『湖国と文化 秋/第173号(発行:びわ湖芸術文化財団)』に寄せられていた『ぼくらが生きる湖』というエッセイ。実はこのチームが出会った漁師さんは、ここに文章を寄せていた中村清作さんのお父さんだったそうです。彼らが偶然手にしていた雑誌のコピーから関心が生まれ、エッセイ中の登場人物と実際にお会いできて話をし、知識が現実の世界でどんどんつながり始める瞬間を経験してしまったカイヅ・マキノ紹介班はとってもラッキーだったともいえます。

『湖国と文化 秋/第173号』

特集:琵琶湖の深呼吸〜育む命と温暖化

発行:(公団)びわ湖芸術文化財団、202010

インタビューした中村さんと出会ったのがちょうどココ、誌面内の写真に写る、私が指差している場所だそうです。

その漁師さんー中村重樹さんから、琵琶湖に生息する外来魚の駆除を行っていること、琵琶湖の深呼吸がここ2年起こらず魚が獲れないこと、せっかく獲れた魚が売れないことなどを中村さんの言葉で伺うことができました。

“琵琶湖の深呼吸”とは、冬から春にかけて年に一度起きる琵琶湖の水の全循環のことを喩えた言葉です。

琵琶湖の水は、晩秋~冬の外気によって冷えて沈み込んでいる低層と春~夏にかけて暖まる水温の層とが風波・気温の変化によってぐるりと循環し、湖底へと酸素を行き渡らせています。冷えた水の方が重いので、では循環は秋や冬に起こるのではないかと単純に思ってしまうのですが、そんな簡単な話ではないのが自然現象です。詳しく知りたい方は是非、下記、滋賀県琵琶湖環境科学センターのHPもご覧ください。

*滋賀県琵琶湖環境科学センターHP「琵琶湖の全層循環」について

https://www.lberi.jp/learn/jikken/junkan

 

平成30年度に観測史上初めて、今津沖の一部水域にて全層循環が確認されませんでした。また、令和元年度においてもこの水域で確認されず、2年連続で全層循環は未確認となりました。

全層循環が深水層にまで達しないと、溶存酸素濃度がいつもの年より少し低い状態から低下が始まることから、深水層の溶存酸素濃度が一年で最も低くなる秋に底層の溶存酸素が少なくなるおそれがあり、底生生物への影響が懸念されます。センターでは、琵琶湖北湖の底層溶存酸素濃度のモニタリングや、底層付近の生物の調査を行っています。(滋賀県琵琶湖環境科学センターHPより 引用)

 

滋賀県では、1985年度(昭和60年度)から外来魚対策を実施しています。現在、駆除対策の対象としている魚種は、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュの4種となっています。

*滋賀県HP 外来魚駆除対策事業 よりhttps://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/suisan

湖岸をめちゃくちゃ歩きまわった、というカイヅ・マキノ紹介班。探検ルートMAPの紹介が丁寧にされていて、とても面白かったです。

このチームの発表を受けて、私自身も強く「琵琶湖のお魚を食べてみたい!」と思いました。琵琶湖の固有種ビワマス、ニゴロブナを塩漬けにした鮒寿し、案外に淡白な味と聞くブラックバス。一体どんな味でしょうか・・・

【チーム 風来坊】

みずとともに。〜琵琶湖と生きる海津〜

地元の方々に積極的に声をかけ、海津での暮らしや地域が大切にし続けているものについて色々な立場の方にお話を伺っていたチーム 風来坊。

「海津の人々の暮らし」をテーマに、衣食住にまとめてプレゼンテーションを行いました。

「自分達の琵琶湖を大切に使わせてもらっているということを忘れない。私たちは昔から水を大切にしてきている」

これはインタビューの中で地域の方からうかがった言葉だそうです。

海津に暮らす方々との対話を重ねる中、このチームは海津の魅力には全て水が深く関係していることに着目しました。

発表の中では、海津では生活排水をそのまま流さず一度山側にある“ヌマ”に溜め、ヨシによる自然の浄化装置がきれいにしてくれたものを川へ戻す、という仕組みがあることも紹介してくれました。

これら、町の人の琵琶湖を汚さない知恵は水と共に暮らす海津の人々の“あたりまえ”となっています。

水と共に生き、水を大切にし綺麗にする。

その土地の「思いやり」や「知恵」があるからこそ、琵琶湖の水は綺麗に保たれ、長く関係性を築けてきたのではないか。

では私たちにできることはなにか。

どうすれば琵琶湖を大切にして行けるか。

私たち聞き手に大きな問いを投げかけるカタチでプレゼンテーションがまとめられていました。

それぞれに異なる魅力を見つけ発表を行った海津フィールドワークでしたが、彼ら(私も含めて)全員に共通して何度も口をついて出てきた言葉が「美しい景色」「美しい景観」だったように感じます。フィールドワーク初日の晴れた日の琵琶湖、陽が傾いてきた頃の琵琶湖、もしくは曇りの日の琵琶湖をいちばん好きだと紹介してくれる学生もいました。

海津にのこる「水辺の暮らし」を知ることを通して、また新たな滋賀県の一面を垣間見ることができました。

最後に、海津の町の美しさを発表末の感想で繰り返し言葉にしてくれた風来坊 チームの学生のコメントを一部紹介させていただき、筆を擱きたいと思います。

「滋賀県に住みながらこんなにも綺麗な街並みや景色を感じ見ることの 出来る場所を知りませんでした。 調べれば調べるほど水とのつながりがこんなにも深く、水を尊敬して感謝して生活しているという、空気の1つとなっている場所は海津しかないんじゃないかと思うくらいでした。 私達も琵琶湖の水を貰っていつも生活していますが、生活の中で琵琶湖の 水のことを考える時間があまりないということに気づき、これからは琵琶湖とともに暮らしていることを心の中に留めとくだけでなく行動に移せたらと思います。」(Uさん)

「地元の方々は忙しい中、海津の魅力などについて丁寧に教えてくださり、地元の優しさに触れる事が出来ました。 また、調査をしていくと昔のものや仕事が残っていたり、水との繋がり が深く関わっていることに驚きました。自分達が使う水は綺麗にして返すことを行っているから琵琶湖は綺麗なままでいることから、それほど海津の人達は水を大事にしていることを知る事が出来ました。気球温暖化が進む中で、私達も海津の人達みたいに自然を大事にしていかないといけないなと思いました」(Iさん)

「最初に訪れ、詳しく散策するまでは、水辺の景観が美しい町という教えられたことしか感じられなかったですが調査する につれ、住んでいる人達の優しさ、川の仕組み、水との繋が りや歴史など、調べれば調べるほど魅力が見つかって、見え方がガラリと変わりまた。また、何回も行くに連れ、また来たいと思うようになり、もしも定期券内等いつでも来れる状況ならいつでも来るというような話をするまでに、海津の魅力に惹かれるようになりました。」(Yくん)

 

 

レポート:山田真実(地域実践領域 アシスタント)

右から

①『文化的景観 生活となりわいの物語』

金田 章裕(きんだ あきひろ)

日本経済新聞出版社、2012

人間と自然が共同で作り出した文化的景観を、地域資産としてどう守り、生かしていくのか。文化財保護法改正の中心メンバーでもある著者が、内外の事例を紹介しながらまとめる、「文化的景観」に関する初の解説書。(*日本経済新聞出版社HPより引用、https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/16829)

②『近江の宿場町 (淡海文庫)』

八杉 淳 (やすぎ じゅん)

サンライズ出版、2009

皇女和宮が通った中山道は「姫街道」?「ずいずいずっころばし」と街道の関係とは?近江の東海道と中山道の宿通町の成立や構造、運営とともに、宿場を通行し、休泊した人々、暮らす人々のすがたを紹介する。(*カバー裏、紹介文引用)

③『近江東海道を歩く (近江旅の本) 』

八杉 淳 (やすぎ じゅん)

サンライズ出版、2010

京三条大橋から逢坂峠を越え、大津ー草津ー石部ー水口ー土山の各宿場、そして鈴鹿峠まで。芭蕉が眠る義仲寺や草津宿本陣、旧和中散本舗など、近江東海道を歩いて楽しむガイドブック。(*カバー裏、紹介文引用)

④『中山道 街道開設四百年記念』

 (編集) 板橋区立郷土資料館ほか

板橋区立郷土資料館、2002

街道開設四百年記念し、中山道の成立と発展、江戸時代の旅とそれを支えた仕組みに関する資料を紹介した展覧会の図録です。

『湖国と文化 秋/第173号』

特集:琵琶湖の深呼吸〜育む命と温暖化

(公団)びわ湖芸術文化財団、202010

 

*地域実践領域の加藤先生、石川先生も寄稿されています

フィールドワークを行うにあたって3密を避け、下記の点について十分配慮をして慎重に行います。

1. 3密を避けるため、屋外で十分に距離をとって歩くようにする

2. 必ずマスクを着用する

3. 大声を出したり、必要以上の接触が無いようにする

4. 必要以外に外部の人と接触しない(外部の人にお話いただくなどする場合はマスクの着用など必要な感性症予防対策を講じてもらう)

5. 5名に一人あたりの引率者を配置する

6. 過去2週間の行動記録をしっかりつけている学生を対象とする

7. 引率者は消毒液、ティッシュ、マスクの予備等、感染症防止のための用品を携行する

8. 公共の交通機関を利用する場合は、できるだけ密を避ける

9.その他、受講生、引率者は感性症に関して最善の注意を払って行動する

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